マドラスとミズノ
ジャパンブランドが挑む
"最高の履き心地"

ビジネスで活躍する洗練されたルックスと、最高の履き心地。今年3月、この2つを両立した新しいビジネスシューズ・ウォーキングシューズ、「madras Walk MIZUNO SELECT」が登場した。日本を代表する革靴メーカーであるマドラスとスポーツメーカーであるミズノが、初めてコラボレーションして商品を開発。革靴づくりで培われたクラフトマンシップと最先端スポーツテクノロジーが融合し、最高の一足を作り上げた。商品誕生の裏にある苦労やこだわりを、開発およびデザイン担当者である、マドラスの小熊正昭氏とミズノの本多家将氏が語り尽くす。

小熊正昭(以下、小熊) 近年、オンラインなど靴の販売チャネルのボーダレス化が進み、一方で靴づくり自体においてもアパレル企業などが参入してブランドもボーダレスになっています。そんな中、革靴メーカーとしてどんな商品で戦っていこうかと模索していた時に、マドラスがたどり着いたのが、究極の歩きやすさという「機能性」でした。

本多家将(以下、本多) 健康志向の高まりなどで、ウォーキングが注目されていますからね。

小熊 そうなんですよ。そんな折、共通の取引先からミズノさんをご紹介していただき、革のクラフトマンシップとスポーツテクノロジーとの融合を目指す、このコラボレーションが始まりました。それが、2017年初頭でしたね。

本多 小熊さんはこのプロジェクトが始まったとき、正直、どうお感じでした?

小熊 ミズノさんも革靴を作っていらっしゃるので、ある意味ライバルじゃないですか。そのライバル同士が、しかも日本国内の企業で手を組むというのは、すごく大きなことだなと。しかも、ミズノさんの研究の成果である、クッション性と安定性を両立させた波形プレート、「ミズノウエーブ」を搭載したソールを使わせていただくことで、マドラスとしても今までにない商品を生み出せるのでは、とワクワクしていました。

本多 私としても、マドラスさんの靴はすごくきれいなシルエットだし、仕上げも美しい。そうした革靴メーカーの製法を、一緒に商品を開発しながら勉強できるというのは、すごく楽しみでしたね。

小熊 具体的な商品化に向けてスタートしたのは18年の初頭。当初からドレスライン(下写真A、B)とビジカジライン(下写真C)というビジネスシューズのグループ2つと、ウォーキングシューズタイプ(下写真D、E)という合計3グループを、マドラスのほうで考えてお持ちしました。まず、ドレスラインとビジカジラインに関しては、ミズノさんの技術を使わせていただきつつ、当社のほうで作り込んでから最終的な段階でプレゼンさせていただいて。

本多 ミズノのソールに合わせてデザインする上で、大変だったことはありますか?

小熊 従来の革靴のソールって、革だったりゴムだったりしてかなり薄いんです。でも機能性の高い「ミズノウエーブ」を搭載したソールだと、どうしても少し分厚く見えてしまう。横からの見た目を極力薄くするため、ソールのエッジを1㎜から1.5㎜ほど削って凹ませたんです。

本多 確かに底が薄く見え、ビジネスシューズとして違和感がありませんね。

小熊 あと、足裏のアーチを支えて足への負担を分散する「アーチサポートインソール」を中底に入れると、靴の木型が分厚くなりやすいのも課題で。特にドレスラインだと、シュッとしたシルエットが命。木型を何度も削って、調整を繰り返しました。

本多 最初にサンプルを拝見した時、正直言って驚きましたよ。クラシックなデザインで格好いいし、職人さんが幾重にも色を重ねて染めるパティーヌ仕上げや深い陰影を感じさせるシャドー仕上げも施されていて、靴の美しさが際立っていて。特にドレスラインの革、質感がいいですね。

小熊 キップ(生後6カ月から2年くらいの牛を原料とする革)の染色していないクラストレザーをチョイスしています。

本多 美しいですね。あと、横からよく見たら底部に波形プレートが入っているけれど、一見するとミズノのソールだということがわからないところもいい。「さすが」と思いました。

小熊 その時点で、本多さんにはサンプルをお渡しして、履いていただきましたよね。

本多 ええ、実際に履いてみて、かかとで着地した時のクッション性など、自分たちの技術もちゃんと生きているとはっきり感じましたね。個人的に革靴が好きで何足も持っているのですが、かかとの材質が革や薄いゴムなどだと、歩いた時の衝撃がどうしてもダイレクトに足にくる。それが、この靴だとふんわりしていて心地いいんです。ところで、このドレスラインやビジカジラインだと、ラスト(靴型)のつま先部分をちょっと長めにとってあるんですよね?

小熊 はい、捨て寸はスマートにも見えるよう若干長めにとっております。

本多 たとえばスポーツ系のランニングシューズだと、ある程度フィットしていないと運動しづらいため、捨て寸はもっと短いです。革靴では見た目も大事なので、一般的に捨て寸は20㎜くらいのはず。でも、美しい見た目を重視するマドラスさんの場合、そこからさらに長い。履いてみて、そうした靴づくりの違いも実感しました。

小熊 なるほど、確かにそんなところにも違いが出ているんですね。一方、ウォーキングシューズタイプのほうは、最初にお会いした時、まず当社で作り込んだラフサンプルをお持ちし、見ていただきましたね。

本多 それを拝見して、スポーツ用品を手がけてきた経験から、「自分ならこうしたい」という欲求が湧いてきたんです。それで、失礼ながら試しに、「私がデザインしていいですか?」と伺ったところ、「ぜひやってください」とおっしゃってくださって。

小熊 内心、「待ってました!」という感じでした(笑)。むしろ、スポーツの目線から本多さんにデザインを描いていただき、それをマドラスの革靴づくりの目線で形にしていくというほうが、新しいものが出来るんじゃないかと考えていて、本多さんには、希望するイメージを伝え、デザイン出しをお願いしました。

本多 その1カ月ほど後、最初のデザインをお見せしましたね。2タイプあって、1つはエレガントな雰囲気のタイプ(E)、もう1つは昔のランニングシューズのテイストを感じさせる、よりスポーティなタイプ(D)。

小熊 見たときに、一発で「あ、これはいける!」と思いました。それくらいの衝撃を受けたんです。スポーツタイプだけれどビジネスシーンにも履けるような、イメージ通りのスッキリとしたデザインで。その後少しずつ修正はありましたが、基本はほとんどそのまま進めさせていただきましたよね。

本多 気に入っていただけて、本当によかったです。

小熊 あとは私のほうで木型と素材と仕上げ方を考え、随時ご相談しながら形にしていきました。たとえばエレガントなタイプはスマートなフォルムなので、若干パリッとしたハリのある革をチョイスするとか。ただ、ここからが少々大変でした(笑)。サンプルを本多さんにお見せしたら、それにたくさん赤いテープを貼って、「このラインを2㎜下にしてほしい」「角度を1度小さく」などと、微修正点をたくさんご指摘いただいて。

本多 細かくてすみません(笑)。スポーツのデザインをやっていると切り返しの位置のわずかな違いで印象がかなり変わるので、つい、いつもと同じ方法でやってしまいまして。ただ、特にこのエレガントタイプのサイドラインは一番印象的なデザインなので、どうしてもこだわりたかったんです。

小熊 それこそ私自身が一番好きなデザインでもあるんですけれど、長いサイドラインがつま先に向かってシュッと鋭角に入っている部分。左右の位置を揃えるのは、実はそんなに簡単なことじゃないんです。天然皮革ですと、均一に同一に上げることは非常に難しい作業ですが、職人には、平行をとる型紙を当て、1つ1つチェックしてから縫うというのを徹底してもらいました。

本多 スポーツシューズの場合はある程度機械化した設備でやるので均一にできますが、それを手作業でやるわけですから大変ですよね。そうしたやりとりを通して、今回、職人さんの手で丹念に作られるマドラスさんの技術力に圧倒されました。スニーカーと革靴では、製法だけでなく、1つの靴にかける職人さんの時間も全然違う。

小熊 私のほうも、スポーツ目線でのラインのとり方とか色の使い方、本多さんの発想力や感性も新鮮で、とても勉強になりました。本当に幸せなコラボレーションになったと思います。商品化も、期日になんとか間に合いましたし(笑)。今後も、お互いに刺激を与え合える商品開発をご一緒できれば幸いです。

本多 こちらこそ、よろしくお願いいたします!

PROFILE


 

マドラス株式会社
商品部 企画管理課

小熊 正昭
おぐま まさあき

革靴メーカーから移籍し、2018年1月、マドラス入社。本プロジェクトの担当者に。長年培った革靴デザインの経験から、その頭脳には無数の革の種類がインプットされている。

ミズノ株式会社
グローバルフットウェアプロダクト本部
デザイン・開発部 デザイン課
グローバルデザインアンドイノベーションスタジオ

本多 家将
ほんだ いえまさ

2017年10月、ウォーキングシューズ等を開発するチームに異動し、本プロジェクトの担当に。今回の商品のロゴの「Walk」をペン字調にデザイン。軽快さと躍動感を表現した。



日経ビジネス電子版 SPECIALから転載

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