
マッケイ製法の魅力に迫る!

歴史あるマドラスの靴づくりにおいて、
ターニングポイントとなったのがマッケイ製法の導入。
現在でも主流であるマッケイ製法が
熟練の職人によって、どのように手掛けられているのか!?
今回はその秘密に迫りました。
マッケイ製法とは?
マッケイ製法は、もともとはイタリア•マルケ地方の伝統技法。本格的な製法が確立されたのは1858年。アメリカのマサチューセッツ州でライアン・ブレイクがマッケイ製法用の機械を開発しました。その後、ゴードン・マッケイが機械の権利を買い取り、改良を重ねることで現在のマッケイ製法の原型ができあがりました。

現在のマッケイ製法は、甲革と本底を貼り合わせた後、甲革・中底・本底を一緒に通し縫いをします。構造がシンプルなため、軽くて底の返りが良いのが特徴です。また、すっきりとしたシルエットの靴を作ることができます。


マッケイ製法の長所
マッケイ製法による靴の長所は、美しく繊細な仕上がりにあります。まず、構造上コバの張り出しを少なくできる(本底の縁周りが甲革より外側にはみ出し過ぎない)デザインなので、軽快でスマートなフォルムが実現できます。
また、形だけでなく素材にも特徴があります。製造過程では、木型を入れた状態で甲革と本底を張り合わせ、一旦木型を抜きます。そして、甲革と本底を縫い合わせた後、再び木型を差し込みます。このように、木型の抜き差しをするのでシワが入りにくい革でなければなりません。この為、繊維が細かな革を採用します。そのような革だからこそ、しなやかなフォルムや、木型のラインを活かした美麗なシルエットを実現できるのです。
デザイン・履き心地ともに妥協しない靴づくり
1㎜以下まで妥協しない木型づくり
靴のベースとなる木型は、マッケイ製法のみならず、すべてのマドラスの靴づくりにおいて重要な要素。1㎜以下まで緻密な大きさやフォルムの調整をすることで、理想とする一足の設計図ができあがります。特に、マッケイ製法による靴は足を包み込むような仕上がりなので、木型の良し悪しがダイレクトに反映されます。デザイナーは、日々日本人の足型を研究し納得できる木型になるまで、何度でも作り直します。

デザイン上の特徴
マッケイ製法の特徴のひとつに、底面から見える縫い目があります。マドラスでは靴のデザインに応じて処理方法を変えています。どんな柔らかい革でも靴にできるオープンマッケイのほか、エレガントな本底のスタイルを崩さず、浸水しにくい「かき伏せ」や「メス入り」タイプなどを使い分けています。

オープンマッケイ
マッケイ縫いが地面に接することの無いように、本底に溝を掘り、その溝に沿って縫い合わされます。軽量、屈曲性を損なうことなく、本底を強固に接着できます。縫い糸が見えるので、ハンドクラフト感のある重厚なイメージを演出できます。

メス入り
革の本底に入れた切り込みの中でマッケイ縫いを行い、縫い合わせ後、切り込みを閉じ合わせます。無骨に見えがちなマッケイ縫いの跡を完全に隠せるので、エレガントな本底のスタイルを崩しません。イタリアではよく見られますが、手間がかかるので日本国内では珍しい製法です。

かき伏せ
革の本底に、端から斜めに入れた切り込みの中でマッケイ縫いを行い、切り込みの上にめくり上げていた革を元通りに伏せて閉じ合わせます。マッケイ縫いの跡を完全に隠し、切り込みも端にあるので跡が目立ちにくいのが特徴です。縫い糸が見えないので見た目がスマートで洗練された印象です。
ボローニャ製法とは
マッケイ縫いを使用する靴づくりのひとつには、ボローニャ製法もあります。イタリアのボローニャ地方で発明された製法で、足を包み込むように裏革を袋状にした構造です。セメント製法やグッドイヤー製法では中底が必須ですが、マッケイなら中底を使わずにつくることも可能で、ボローニャ製法は返りが良いマッケイ製法の中でも、さらにしなやかな履き心地を実現できます。中底が無く、さらに柔らかで袋状の裏革が足を包み込むので、その心地良さを好む人も多いのですが、中底を使わないがゆえに長時間の使用には不向きと思われてきました。そこで、マドラスでは独自の2重クッションを採用し、足が疲れにくいよう工夫。ここにも“本物の履き心地”を追求するマドラスの姿勢が垣間見えます。



職人によるマッケイ縫いの様子
マッケイ製法の靴は本底と中底を縫い合わせた糸が、靴の内側に露出しています。足に触れると違和感を感じるので、糸が足に当たりにくい位置に来るよう、なるべく外側を縫います。そのためには、針を入れる角度がとても重要ですが、ミシンに合わせて靴をぐるりと回転させながら、靴の角度・持ち方をうまく調節する技術が必要なのです。
次世代へと伝統を紡ぐ 技術の伝達
マッケイ製法の導入以来、職人達は試行錯誤を繰り返しながら製品のクオリティを高めてきました。マッケイ縫いに使用するミシンも年月とともに発達しますが、その特性を掴みながら靴づくりを行ってきました。旧式のミシンでは足踏みペダルで縫いの速度を決めるため、曲線部や縫い始め、縫い終わりが難易度も高め。熟練の技術が必要になります。一方、最新の機械では足踏みペダルを使用するものの、コンピューターがスピードを制御してくれるので、難しい曲線部や縫い終わりも自動的に縫いの速度がゆっくりに。職人の感覚に頼っていた部分をコンピューターが補ってくれるので、作業性も高まります。

靴づくりで大切にしていること
100年近くの歴史を持つマドラスが大切にしているのは“本物の履き心地”を追求すること。マッケイ製法の靴づくりでは、手元での力加減や、靴本体を上手く導き美しく正確な作業をすることはもちろん、中底面に出る縫い目の位置や出っ張りなど、履き心地に影響する箇所の作業は特に気を付けています。ほかにも、機械の下糸の調子や糸の素材、縫い針の形状などもこだわって厳選・改善し、縫い目が足に当たって不快にならないよう工夫をしています。
このような職人たちによる地道な努力こそが、マッケイ縫いの靴をはじめ、マドラスの靴づくりの伝統。また、技術だけでなく、機械を大切に扱うことなど、靴づくりへの姿勢も大切にし、ベテランから若手職人まで、その文化は受け継がれています。
