マドラス株式会社

代表取締役社長
岩田 達七

1950年、愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にマドラス(旧亜細亜製靴株式会社)入社。80年に同取締役、84年に同代表取締役、2010年に現職。関連会社の代表取締役も務める。


――国内の靴・履物市場の現状に対するお考えと御社の業績について、お聞かせください。

岩田 当社は1921年に名古屋で創業以来、一貫してメイド・イン・ジャパンとクラフトマンシップ、履き心地にこだわって革靴製造を行ってきました。国内紳士靴市場が急速な縮小傾向にある中、当社の業績は厳しいながらも堅調に推移。現在の売り上げをけん引するのは、2002年に発売したGORE-TEX ファブリクス採用の防水シューズモデル「madras Walk」で、18年度販売数は前年比105.8%。人気の理由はデザイン性と機能性だと分析しています。

マドラスとミズノの初コラボ「madras Walk MIZUNO SELECT」では、両社の強みを生かす

――3月11日、スポーツメーカーのミズノとの初コラボレーション商品を発売されました。その狙いは?

岩田 トレンドがスポーツスニーカーに移行し、健康志向も高まる中、オン・オフ問わずスニーカーを履く方が増えてきました。当社でも2年前からオフィスでの服装を完全に自由化し、社員の意識から改革を断行しました。今後は革靴メーカーとしての経験を生かしながら、カジュアル・スポーツ系商品の開発に積極的に乗り出そうと考えております。

 その一環として、今回、ミズノ様との初のコラボレーションとなる「madras Walk MIZUNO SELECT」を発売いたしました。クッション性と安定性を両立したミズノ様のスポーツテクノロジー、そこにパティーヌ仕上げなど当社の誇る革靴作りのクラフトマンシップを融合。履いて疲れず、ビジネスシーンにも映える、ジャパン・メイドの商品です。これを足掛かりに、ビジカジ分野を一層開拓したいと考えています。

 一方、スポーツシューズ自体の開発にも重きを置いています。当社はすでに8年前、ダンスシューズブランド「JADE」をスタート。革靴メーカーとしての経験を生かした本革スニーカーを作ったところ、大変ご好評をいただきました。そして今春、美や健康をテーマとした「FOOT POWER」を発売。従来、靴というと軽さに注目が集まっていましたが、逆にインソールなどを重くし、履くことによって足が鍛えられるというのがこの商品のコンセプトです。

 1年以内には、ある素材企業とのコラボによる新商品も投入する計画。これまで培った革靴メーカーとしての伝統を生かしながら新たな切り口で商品をご提案し、「マドラスは面白いことをやっている」という姿をお見せできればと考えています。




――近年、香港とタイに売り場を拡大されました。海外での反応は?

岩田 17年9月から展開する「香港そごう」の売り場では、10月から1月まで4カ月の対前年比販売数は158.5%と手応えを感じています。タイの「サイアム髙島屋」の売り場でも、ほぼ同様の動きを示しています。暖かい気候の東南アジアでは、これまでスニーカーなどカジュアルな靴が主流でした。反面、冠婚葬祭などで必要となるドレスシューズの供給はまだ十分とは言えず、この分野に強みのある当社にも大いにビジネスチャンスがある。今後はさらに、中国の上海や北京、東南アジアなどへの本格的進出を計画しています。

――海外向けの軸をなす商材とは?

岩田 我々がグローバル市場でアピールしたいのは「メイド・イン・ジャパン」の高品質。ゆえに、現地の趣向に合わせてアレンジを施すつもりはありません。最初は理解していただくのに時間がかかるかもしれませんが、しばらくは我慢しよう、と。これまで培ったブランドイメージを大切にすることを重視しています。

 また、今後のさらなるグローバル展開を視野に入れた場合、力を入れていきたいのは防臭などの機能性。これは日本メーカーの強みの一つでもあります。1、2年のうちに当社の商品のすべてに様々な機能を標準搭載。同時に当社が追求し続けてきた履き心地を一層高められるよう、機能性の高い底材を自社で開発する準備を急ピッチで進めています。そうした技術革新を重ね、外国製品との差別化を図りたいと考えています。




――2021年で、創業100周年。今後のビジョンをお聞かせください。

岩田 当社の姿勢を分かりやすく示すため、まずは数年かけ、愛知県大口町にある本社工場を刷新したい。地元の小・中学生からお取引企業様まで様々なお客様に広くお立ち寄りいただき、「マドラスは自社で高品質な商品を作っている」ということをしっかりとご理解いただくのが狙いです。同時に、今年秋をめどに靴職人を育てるアカデミーを創設したいと考えています。日本の工業界全体として職人の減少に歯止めがかからない状況ではありますが、実はここ数年、当社では職人の入社希望は若い世代を中心に増えている。この心強い傾向を増幅する意味でも、職人の教育に力を注いでまいりたいと思います。

 またここ数年、SPA(製造小売)型事業化を推し進めています。もちろん卸しをゼロにするつもりはありませんが、100周年、そしてそれ以降の当社の成長を考えた時、自前の売り場を持つことが生き残りの鍵を握ると捉えています。それとオンラインチャネルを上手に活用しながら、当社のブランドを幅広くアピールしていきたいと考えています。

ミズノとのコラボ新商品は、ドレスタイプ(右)、ビジカジタイプ、ウォーキングタイプ(左)の3ライン



日経ビジネス電子版 SPECIALから転載

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