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進化していくドレスシューズを検証する

今回は日本国内から世界中の靴ブランドを取材して、
カジュアルシューズから ビスポークまでを熟知している
男の靴雑誌『LAST』の編集長 菅原幸裕さんをお迎えしました。

靴雑誌に関わるようになった経緯から、世界の靴事情、
プロから見たmadras工場の印象、理想のソール論などを伺い、
進化し続けているドレスシューズについて語っていただきました。

男の靴雑誌『LAST』編集長 菅原 幸裕さん
◆プロフィール
2003年に男の靴雑誌「LAST」を創刊、編集長を務める。
日本国内はもちろん、 英国、フランス、イタリア、ドイツ、 オーストリア、アメリカ他、
全世界の靴事情に通じ、カジュアルシューズから ビスポークまでを熟知している。

靴に興味をもたれたのはいつ頃ですか?

特に革靴が好きになったのは大学の頃ですね。1980年代の後半で、ちょうどドライビングシューズが流行りだした時期です。気に入って履いていたのはチャッカブーツですね。高かったけど、時代背景もあって、アルバイトで稼いだお金を服や靴に投資していました。

僕はとあるブランドの直営店でアルバイトをしていたので、自然とそのブランドを着る機会が多かったです。イタリアンテイストでミリタリーデザインのフーデッドブルゾンは、デニムに合わせて、足元にはちょっとラフなクレープソールのチャッカブーツ。その靴は何回もソールを張り替えしていますが、未だ現役です。

どのような経緯で『LAST』の編集長になられたのですか?

大学卒業後は普通の企業に勤めましたが、早々にやめてしまって出版の仕事に。編集プロダクションなどで働いた後に、エスクァイア日本版編集部に入りました。たまたま16Pの靴特集をやったことが現在の『LAST』の始まりでした。

エスクァイア誌はどちらかというとヴィジュアル優先の雑誌だったのですが、その時は海外に取材に行き、こまごましたディテールまでこだわった特集にしました。エスクァイア マガジン ジャパンでは『LAST』は13号作りました。現在の形になってからは12号まで出ています。

『LAST』という雑誌名の意味について。

『LAST』という誌名は、当時のエスクァイア マガジン ジャパンの社長であり、現在の発行人である松崎壮一郎が名づけました。靴の専門誌を作ることになって、急に彼がいい名前があると言い出し、それが“LAST”でした。僕としては上司でもあった松崎が言ってくれたことが良かったと思っています。なぜなら“LAST”というのはシューズを作る際、足の形状をベースに作られた木型のことを指しますが、一般的には“最後の”という意味の単語であり、発行人としては少し難しい名前です。僕がその名前を先に口にしていても、断られなかったかもしれませんが、上の人間が着想して決めてくれたおかげで、スムーズに決まりました。

僕自身も、靴が本当に好きな人にとって符丁になり、ぱっと雑誌を見たときに、「ああこれは、僕らの雑誌だね」と思えるものでよかったなと思います。靴だから普通であれば、“SHOES”という言葉を使うのでしょうが、入れていません。というより避けたかった。まあ、当時のエスクァイア的な考えで、直接的な表現は、カッコ良くなかったから。フランスに『トレポアント (trepointe) 』という靴雑誌がありますが、それはウェルト (靴の周りを縁取るようにアッパーとアウトソールに縫い付ける、細い帯状の革のこと) という意味です。

靴は革が重要ですが、
海外取材で貴重な革に出会ったことはありますか?

貴重な革には、主にビスポーク靴店でよく出合いました。といっても彼らは多くの革を常時ストックしているわけではなく、その都度革のセラーから調達しているようなところがあります。既製靴メーカーと比べると、コスト構造上より革に多くを割くことができるところもあり、贅沢に革を選び使っているといえるかもしれません。まず挙がるのはクロコダイルでしょうが、靴業界でよく話題になるのは「ロシアンカーフ」というトナカイ革ですね。英国近海で200年以上前に沈没した船から引き上げられた革で、独特の表面の凹凸が特徴です。もろい革でもありますが未だに人気が高く、この革の表面を模した型押しの革もつくられているくらいです。

多くの靴ブランドを取材されている菅原編集長から見て、
靴の先進国はどこの国ですか?

難しいですね、何をもって靴の先進国だというか、でもやはりマニファクチュアが集約されているという点で、英国、特にノーサンプトン地域になるでしょうか。シューズを生産するファクトリーはもちろん、さまざまな部材メーカー、さらには靴づくりに欠かせない木型をつくるラストメーカーもほぼ同地域にあるのが強みだと思います。また、革づくりをするタンナーもそう遠くない地域にあります。それらの担い手たちが相互に密にコミュニケーションをとり合えることで、靴の品質向上や進歩に繋がっているように思います。

日本におけるラストはどのように発展していったのですか。

正直言ってまだまだ探求が必要なのではっきりとは言えませんが、日本の靴づくりにおいて、ラストづくりは比較的後になって、本格的に取り組まれたのではないかと見ています。西洋から靴づくりのためのラストを持ち込み、それをベースに日本での靴づくりは確立されていきます。特に軍靴づくりにおいて、日本の靴づくりは飛躍的に進歩したように、後世からは見えます。

その一方で明治~大正期のことを記述した資料などを読むと、街にはたくさん靴の仕立屋があったものの、そこでは一種類、時には2~3個のラストで全てのお客さんの靴づくりに対応していたらしいことがわかります。むしろサイズごとに機械を使いつくられた既製靴のほうがより「上等」だったという記述もあるくらいです。現在の日本のビスポークやシューズメーカーの靴づくりからは考えられない状況ですね。

ここからは、以前菅原編集長が取材した
madrasのモノ作りについて語っていただきます。

madrasの名古屋工場取材をされたときの印象は?

靴作りは「目に見えないところが実力」。それはどういうところかといえば、ラストをどれだけマイナーチェンジしているか、作り方の各工程にどれだけ改善があるのか、そういうところが垣間見えるブランドは良い靴づくりをしています。

まず工場に行った際の第一印象が、ちょっとラボっぽい。その後、小さな工程、仕上げなどの細かいところをトライ・アンド・エラーしながらどんどん改良している、その痕跡が見えました。仕上げをずっとこのやり方でやっているけど、「今度はこっちでやってみたい」とか、そういったトライしてみることがモノ作りのパワーになっていくのかもしれません。

やはり現場の人がいろいろ考えて「このやり方のほうがいい」と判断できるところ。これがあるから新しいモノ、新しいやり方が生まれてきます。それがmadras流の発展かもしれません。

各工程で責任を与えられている方が若いのでフレッシュな感覚をベースとして、トライ・アンド・エラーを経て物づくりしているように見受けられました。エラーばかりだといけませんが、エラーなしで発展はありえませんし、いい成果は生まれない。それがすごくうまく行われていたという印象でした。しかもそれぞれの工程を熟知されている方がいらっしゃるのには感心しました。このデザインやパターンが優れているというわけではなく、そういうものを生み出す土壌があることが強味だと思います。

僕らは『LAST』という、靴が出来上がったらなくなってしまうものをタイトルにしていますが、実際に靴になってからは見えないけれど、その背後にあるものは、非常に気になるところです。

それがmadrasの場合、常に進化していこうとする気概が感じられました。そしてそれは美しい底付けや仕上げとして表れていました。今は靴業界全体的な流れで、仕上げに注力しようとするトレンドになっていますが、madrasは様々な面でアドバンテージがあるように感じました。

靴はどういう形で進化しているのでしょうか?

まず快適性という意味合いにおいて、靴は進化を続けていかなければならない。靴は雨、外からの湿気と、内部からの湿気をどう解決できるかで快適性が変わってきます。ゴアテックスを採用することは、それに対しての1つのトライアルです。もともとはアウトドアなどに使われていたもので、それがデイリーユース、しかもビジネスにも採用されるようになりました。

madrasの靴づくりは、ゴアテックス製シューズというよりは、良質な素材を使うのと同じ感覚で、ドレスシューズに「どのようにゴアテックスを取り込めたらいいのか」ということを、非常に意識的にやられていて、それがうまい形ではまっているように思います。

ドレスシューズへGORE-TEX®ファブリクスを採用。
madrasならではのこだわりとは?

いくつものブランドでゴアテックスが内蔵されたパフォーマンスモデルを作っていますが、見た目も含めて“ごつさ”があり、それはその良さもありますが、madrasはさすが自社のポリシーから、ドレスシューズはあくまでもビジネスシューズ、あくまでもオンタイムシューズの中で、「どうやってゴアテックスを取り込むのか」というスタンスをしっかりと守っていることが感じられます。

ゴアテックスの機能が、自然な形で靴に盛り込めていると思わされるケースはそう多くありません。そんな中でここまで徹底して、ゴアテックスを素材化して、使いこなしているのは凄いです。これはゴアテックスで、こちらはそうじゃない。見た目で見分けることができない。そこは素晴らしいし、どんどん進化していくと思います。

アウトソールにおける進化は現在進行形ですか?

madrasにはヴィブラムソールも取り入れられています。ソールテクノロジーでいえば、ヴィブラムはやはり世界的にもトップランナーなのでmadrasの選択も当然でしょう。ファッションの主流がクラシックになったり、時にエレガントになったりしますが、ここ15年から20年の中で、コンフォートとリラックスというキーワードが外れた時期がありません。

どんなソールが理想ですか?

「レザーソールが持っている質感や快適性をどのようにラバーソールに反映するか」ということが気になりますね。ラバーソールは丈夫だったり、水気に強いなどの利点がありますが、革底が持っているような路面に対して滑るか滑らないかの、程よいグリップ性をラバーソールで再現はできていないように思います。また、ラバーソールの重さや屈曲性の少なさ、さらにはこれは証明できてはいませんが蒸れやすさなどをどのように緩和させていくのかということにも興味があります。

重量に関して、研究が進んでいると思っています。ヴィブラムVi-Liteとか、そのあたりは現在の最新型です。軽くて耐久性があり、デザイン性においてもスマートですし、ブランドとコラボして、オリジナルに仕上げているというところもおもしろいですね。

オーセンティックなスタイルを好む人たちは、他のソールを使いたがりますが、重さであるとか、グリップ力であるとか、耐摩耗性であるとかに関しては、ヴィブラム社が優れています。それとバリエーションが豊富なのもいいですね。

こんなシューズを作ってほしいという要望はありますか。

ゴアテックスを搭載したオーダーメイドシューズですね。素材は現状のもので良いので、その分もうちょっとアッパーバリエーションがあればいいですね。普段からビスポークシューズに親しんでいる方でも、雨の日って困っているんです、限られた人ですけど、「自分のフィッティングに合っている雨用の靴」はないのかなって思っている人が結構いらっしゃいます。

また、オーダーにする以上、アッパーのデザインなども、オーダーメイドを好む人に向けて、ぐっとクラシックなスタイルを提案するとか。そこにゴアテックス®テクノロジーが盛り込まれていたら、ちょっと他には見当たらない靴になりそうです。もし実現したらより快適なmadrasが生まれますね。

現在のオーダーシューズの詳細はこちら

最後に、菅原編集長のシューケア術を聞いてみました。

靴を長持ちさせる秘訣、シューケア術を教えてください。

家に帰ってきて靴を脱いだら、シューツリーは必ず入れますね。雨に打たれたら、ソールを浮かせて、ソールの水分をなくすようにして、ある程度乾いてきたら、シューツリーを入れます。自分自身でいえば、一度履くと、2日は休ませますね。

持っている靴はトータルで20足から30足くらい、長い間こういった仕事をしていると、自然に増えていきます。
新しい靴を購入して、5年くらい履いていると馴染んできます、僕自身の経験ですと、10年を超えるといろんなところがへたってくるんです。交換が比較的容易なアウトソールだけでなく、中の芯材だとか、アッパーそのものやライニングの革だとか、それぞれのパーツがへたってきます。そして全体がちょっと馴染みすぎてしまって多少快適ではなくなるケースもあります。

丁寧に履くと靴は一生モノ、ともいわれますが、酷使したら酷使した分、やはりへたるのも早くなります。「早くへたってしまった」と嘆くより、「すいぶん回数履いたんだな」と考えるほうが健康な考え方のように思います。履くごとにその靴の恩恵を受けているわけで、恩恵の回数も多かったはずなので。そして、自分が歳をとるように、靴もまた歳をとっていきます。エイジングの味わいが出てくるといいですよね。その自然な形でのエイジングという点で、最近私の周囲でシューケアの考え方が少し変わってきているようなのです。

靴の磨き方で面白い動きとは?

過剰なポリッシュって本当は革に負担をかけてしまっているのではないかという考え方です。革靴であるからには、革の特性を生かしたい、そのためにはあんまり磨きすぎない方がいい。ケアをしないという意味ではなくて、ちゃんとしたタイミングで、適切なオイルなりクリームなりを適量補給して、革を長く育てていく感覚ですね。

一風変わった考え方かもしれませんが、あえてピカピカにせず、自然な、マットな質感のアッパーがいまはちょっと面白いかなと思っています。もちろん、従来どおりのきれいにポリッシュしたものもいいと思いますが、そういうものが市民権を得ると、靴の世界がちょっと変わるかもしれません。何がいいのか悪いのか、より繊細な見極めが必要になってきますね。

madrasの進化したドレスシューズを紹介

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